最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)2030号 判決 1949年5月17日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人内田善次郎の上告趣意第一点について。
論旨摘録にかゝる原審公判調書記載の「伊海は抜身が手に残り、それを振上げましたので、私は危いと思って後に退り、そのとき木に腰が当り前に倒れまして、その瞬間伊海を持っていた日本刀で刺して了いました」との被告人の供述によれば、被告人は過失によって被害者を傷害した旨の辯解をしたことは窺われるが、所論のように刑法第三七條のいわゆる緊急避難行爲を主張した趣旨とは解することができない。そして、過失による傷害の主張は、殺意の否認に外ならないので、舊刑訴法第三六〇條第二項の主張には當らないから、原審がこれに対する判斷を判決に示さなかったからとて違法ではない。されば、論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
よって、舊刑訴法第四四六條に從い、主文のとおり判決する。
以上は、裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)